伐採が行われた山の斜面。切り倒された枝葉や丸太が地表に広がり、遠くに山並みが見える曇天の風景。

建築は、森から始まる。

国産材が建築材料になるまで。岩手県久慈市・岡野木材を訪ねて 建築を設計するとき、私たちは構造、空間、光、設備、仕上げなど、さまざまな要素を検討します。 そして、その建築を実際につくるために欠かせないものが「材料」です。 木造建築であれば、柱、梁、下地材、フローリング、造作材など、多くの場所で木材が使われます。 設計者は図面の中で樹種や寸法、仕上げを指定しますが、その一本の木がどこで育ち、どのような工程を経て建築材料になったのかまで見る機会は、決して多くありません。 今回、岩手県久慈市に本社を構える岡野木材株式会社様を訪問し、森林から切り出された原木が建築材料になるまでの工程を見学させていただきました。 ⸻

国産材が建築材料になるまで。岩手県久慈市・岡野木材を訪ねて

建築を設計するとき、私たちは構造、空間、光、設備、仕上げなど、さまざまな要素を検討します。

そして、その建築を実際につくるために欠かせないものが「材料」です。

木造建築であれば、柱、梁、下地材、フローリング、造作材など、多くの場所で木材が使われます。

設計者は図面の中で樹種や寸法、仕上げを指定しますが、その一本の木がどこで育ち、どのような工程を経て建築材料になったのかまで見る機会は、決して多くありません。

今回、岩手県久慈市に本社を構える岡野木材株式会社様を訪問し、森林から切り出された原木が建築材料になるまでの工程を見学させていただきました。

木材は、建築現場から始まるものではない

私たちが建築現場で目にする木材は、すでに製材され、乾燥され、用途に合わせた寸法に加工されています。

しかし当然、その前には長い時間があります。

山で何十年という時間をかけて木が育つ。

適切な時期に伐採される。

山から原木として運び出される。

製材所へ運ばれ、木の状態を確認する。

皮を剥ぎ、用途に応じて製材する。

乾燥させ、品質を管理する。

そしてようやく、建築材料として市場へ出ていきます。

建築現場に木材が届くまでに、すでに長い時間と多くの人の仕事が積み重なっています。

原木の品質を守るための「散水」

今回の見学で特に印象に残ったのが、切り出された原木の保管方法です。

山林から運ばれてきた原木には、製材されるまでの保管期間があります。

岡野木材では、原木の品質を維持するため、地下水を汲み上げて散水しながら保管されていました。

木は自然素材です。

伐採された後も、その状態は温度や湿度、保管環境などの影響を受けます。

私たちが建築材料として使用するときには整った状態の木材を見ていますが、その品質を維持するためには、製材される以前から細かな管理が行われています。

自然素材だからこそ、自然のまま放置するのではない。

素材の性質を理解し、人の手によって適切に管理する。

木材を扱う技術の一つだと感じました。

青い屋根の倉庫前に積み上げられた黒ずんだ原木の山。地面は雨に濡れ、水たまりが広がっている。
岡野木材では、原木の品質を維持するため、地下水を汲み上げて散水しながら保管されていました。

一本の丸太から、建築材料へ

原木は皮を剥ぎ、その大きさ、状態、用途などを見極めながら製材されていきます。

一本の丸太をどの方向から切り出すのか。

どの寸法の材料を取るのか。

どの用途に使用するのか。

木は工業製品のように、すべてが完全に均一な材料ではありません。

一本一本に違いがあります。

だからこそ、木の状態を読み、その特徴を見極めながら材料にしていく技術が必要になります。

製材された木材も、すべてがすぐに出荷されるわけではありません。

用途や需要に応じて保管される材料もあり、乾燥や品質管理を経て、必要とされる建築へと届けられていきます。

製材所の内部。錆びた機械設備とコンベアの上に製材されたばかりの木材が積まれ、奥にも板材が並ぶ。

年輪が示す「建築より長い時間」

製材所に並ぶ大きな丸太を見ると、断面には何重もの年輪があります。

その一本の木が、数十年という時間をかけて成長してきたことが分かります。

私たちは建築設計において、

「2027年竣工」

「工期○か月」

といった時間軸で建物を考えます。

しかし木材という視点から見ると、その建築に使われる材料は、建築計画が始まる何十年も前からつくられ始めていたとも言えます。

この時間感覚は、木造建築を考えるうえで非常に重要だと感じます。

アスファルトの土場に整然と並べられた大量の原木。木口の年輪がはっきりと見え、奥には杉林と山影が広がる。
製材所に並ぶ大きな丸太を見ると、断面には何重もの年輪があります。

「国産材を使う」だけでは終わらない

近年、国産材や地域材、森林資源の活用について語られる機会が増えています。

しかし設計者として重要なのは、単に、

「国産材を採用しました」

ということだけではないと考えています。

どこで育った木なのか。

どのように伐採されたのか。

どこで製材されたのか。

どのように乾燥・品質管理されたのか。

そして、その木材を建築のどこに、どのように使うのか。

材料の背景を理解したうえで設計に取り入れることで、初めて素材の価値を建築へつなげることができます。

良い建築は、設計者だけではつくれない

建築は完成すると、設計者や施工会社の名前とともに紹介されることがあります。

しかし、その建物をつくっているのは設計者と施工会社だけではありません。

森林を管理する人。

木を育てる人。

伐採する人。

山から運び出す人。

原木を運ぶ人。

製材する人。

乾燥・品質管理をする人。

そして建築現場で加工し、組み上げる人。

一つの建築の背景には、非常に多くの専門家がいます。

良い建築は、良い設計だけでは生まれません。

良い材料と、その材料をつくり、扱う人々の知識・技術があって初めて実現します。

森林資源を次の世代へつなぐ

今回訪問した岡野木材株式会社様では、森林から伐採された原木の受入れから、製材、乾燥、品質管理まで一貫して行われています。

また、合法木材供給事業者として、国産材の活用と森林資源を未来へつなげる取り組みをされています。

現場を実際に見ることで感じたのは、木材に対する深い知識と確かな技術、そして地域の森林資源を継続的に活用していく姿勢でした。

木を使うことだけではなく、

森林を育て、伐採し、また次の森林へつなげていく。

建築と森林を長い時間軸で考える必要があります。

S・CAPE CONSULTINGが考える「素材」

私たちは建築を設計するとき、デザインや機能性だけで材料を選ぶのではなく、その素材が持つ特性や背景まで理解したいと考えています。

価格。

性能。

耐久性。

メンテナンス性。

質感。

経年変化。

そして、

その材料がどこから来たのか。

すべてが建築を構成する要素です。

カタログやサンプルだけでは分からないことがあります。

だからこそ、材料がつくられている場所へ足を運び、実際の工程を見て、つくっている人の話を聞くことにも意味があります。

今回の岡野木材株式会社様への訪問は、木材という素材だけではなく、森と建築の間に存在する長い時間と、多くの仕事を改めて考える機会となりました。

建築は、森から始まる。

建築は完成してから評価されます。

デザイン、使いやすさ、性能、耐久性。

もちろん、それらは重要です。

しかし、その建築を構成する一本の木に目を向けると、その価値は建物が完成するずっと前から始まっています。

何十年も前に植えられた木が育ち、

伐採され、

製材され、

乾燥され、

建築材料になり、

職人の手によって建物になる。

そして、その建築もまた何十年という時間を使われていく。

建築の価値は、完成する何十年も前から、森の中で育まれているのかもしれません。

今回ご案内いただいた岡野様をはじめ、岡野木材株式会社の皆様に心より御礼申し上げます。

木材の価値を知り、森と建築のつながりを学ぶ、大変貴重な機会となりました。

岡野木材株式会社
岩手県久慈市川貫6-2-16

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