
共同設計で向き合う唯一無二の居場所づくり②
「Crossing Sasuke」は小規模な共同住宅のなかでは珍しく、2社による共同設計によって計画されている。ひとつとして同じ間取りがないという“2棟12戸”にこだわりをつめこんだ、アラキ+ササキアーキテクツの荒木さん、久保都島建築設計事務所の久保さんの2社と、プロジェクトマネジャーを務めるS/CAPEの斉藤さんにその意図をうかがった。 お話をうかがったのは
「Crossing Sasuke」は小規模な共同住宅のなかでは珍しく、2社による共同設計によって計画されている。ひとつとして同じ間取りがないという“2棟12戸”にこだわりをつめこんだ、アラキ+ササキアーキテクツの荒木さん、久保都島建築設計事務所の久保さんの2社と、プロジェクトマネジャーを務めるS/CAPEの斉藤さんにその意図をうかがった。
お話をうかがったのは
土地づくりから始まる新しい設計のアプローチ
―設計コンセプトを実現していくうえで、こだわっていることはありますか?
荒木さん
我々が一番こだわっており、かつプロジェクトの特徴になっているのが、設計段階から敷地に対してアプローチしている、手を入れているという点です。
通常は設計が終わって確認申請を終えた後に土地に対してアプローチをしていくのですが、今回は基本設計の段階から山に手を入れ始めています。そういう関わり方をすることは珍しいですよね。
例えば、山に道を作って登った結果、人が過ごせそうな平地を発見し、「ここで何をしよう」と考えたりしています。
―山からの水の流れも考えながら設計されているとか。
荒木さん
共用部にも水道(みずみち)や池を作っています。ただ表面に見えてくるものは一部分でしかなく、実際は建物の下や道路、車が通る車路の下にも水が浸透していくような造作計画をするので、敷地全体を通して山から川に向かって水がスムーズに流れていくように、ということを目指しています。
例をひとつあげるとすると、建物の下は建物の荷重がかかり、土が潰されてしまうことで水がしみこまなくなってしまうのですが、そこへ先に穴を掘り、その穴に竹や炭、落ち葉や枝などを差し込んでおきます。上に後から建物ができても土の中で水と空気が移動できる隙間を作っておくようなイメージです。
共同住宅でこのようなことをするのは、どちらかといえば特殊な例だとは思いますが、最近は土中環境への配慮は注目度が高まっているテーマです。
今回のプロジェクトでは「土中環境」の執筆者である高田造園の高田さんに実際に足を運んでいただき、一緒に作業しています。

眼前の山との一体感を感じられる共有リビング
―室内環境のこだわりを教えてください。
久保さん
コンペの際にも建物の断面形状を工夫して、なるべく多くの住戸が山の景色を取り込めるようにする提案をしたのですが、ただ普通の2階建ての住戸を並べていくのではなくて、山とのつながりをもっとダイナミックにできないかということをずっと考えていました。
最新の計画でも、一番山に近い建物の2階がもっとも山を堪能できるのですが、そのままでは不公平が生まれてしまうため、実は1階の共有リビングでも山側の景色を取り込めるよう、天井を曲げているのです。
仕上げ材も普通のビニールクロスではなく左官材なども使って、他と違う雰囲気に作ることで、自分の部屋とは違った、カフェに行くような感覚で森の景色を堪能できるスペースにしています。さらにこの2階は、段差を上がっていくと山に近づいていくような形になっています。
そのほかには、ルーフバルコニーも作っていますね。敷地を見に行った際に、地面よりも高い位置でくつろぐスペースがあるととても気持ちがいいだろうな、ということを感じていました。実は専有部も階段を上って、自分の家の隣の屋根をバルコニーとして使える計画になっています。
このような形で山の景色を最大限活かし切る、ということをずっと検討してきました。景色を取り込むだけではなく、日光や、風の通り道になる部分も、断面形状を使って考えていますね。
斉藤さん
事務所スペースも一部あるのですが、荒木さんや久保さん、私なども入って仕事ができるシェアオフィスのようなイメージです。共有リビングに人が集まってガヤガヤしている時でも、2階に上がれば仕事に集中できます。
外部の人もゆるやかに受け入れる門構え
―土間があるプランもあるとうかがいました。
荒木さん
中庭に面した1階の床が、AS棟では全て土間になる計画にしています。山から中庭につながって、まちにつながっていくという一連の流れのなかで、中庭と住むスペースの連続性、つながりを作っていこうと考え土間の提案をしました。打ち合わせの中でプロジェクトオーナーの鳥谷さんが「1階は全部土間でいいんじゃない?」と言ってくださったのが非常に印象に残っています。
多様な過ごし方ができる場を作っていくうえで、その一つの仕掛けとして外からつながる要素として入れています。
道路側の一番大きい店舗付きの住居は、カフェや軽飲食の店をイメージしています。これが道路側に顔として出てくるので、まちを歩いて来る人がそこに吸い寄せられて入ってきて、お茶を買って中庭で飲んだり、山へ入っていくような過ごし方をしてもらいたいなと考えています。
店舗部分の上はバルコニー席があり、遠くを見渡しながら目線を変えて過ごせるような場所になる予定です。
入り口向かって左側は、高低差がありもともと建物が計画しづらい場所なのですが、うまく空地が残せたので、まちから入ってきた人や居住者の方がベンチに座って過ごせるスペースにしています。
随所にいろいろな過ごし方ができる場所を用意しているので、「あっ、こういう過ごし方もできるんだ」と、発見しながら楽しんでいただけたら嬉しいですね。
斉藤さん
共有リビングやシェアキッチン、オンラインルーム、デッキ、ルーフバルコニーなどコミュニケーションを取れる場所はすでに計画してあるものの、そこへ行く目的がなければ人のつながりは生まれません。だからこそ、山や菜園のような敷地内のきっかけを通して、自然に会話を促したいと思っています。
荒木さん
共有リビングの場所を一番敷地の奥にしているのは、森の景観を堪能できるという点のほかにも、山と建物の間に菜園などを計画していくため、そこで収穫した物をすぐに共有リビングでシェアして食べたりと、人と人がつながった使い方をしやすいという意図があります。
久保さん
中庭から山に抜けていく道も大きなテーマです。建物の奥に宙に浮いている部分があって、その下が道になっています。敷地に入ったときに、「あれ、あそこは何だろう?」とそのまま山のほうまで引き込まれるような配置計画を作っています。
宙に浮いている部分は大きな窓のある事務所スペースになっていて、プロジェクトオーナーの鳥谷さんや我々が作業をしているのが見えます。そこから施設全体の様子を見ることができるほか、ここを訪れた人にとっては人の気配を感じられる要素にもなります。
斉藤さん
その窓越しに山も見えるんですよね。
久保さん
そうです。大きな窓があって、山まで抜けて見えるように窓が配置されています。
斉藤さん
キッチンカーが奥まで入れるようにも設計しているので、ここで地域のイベントが催せるようにもしたいですね。地域の方々からも、佐助地区の人たちが集まれるような場所にしていきたい、という期待をいただいています。餅つきや盆踊りをしたいとも(笑)。そういった機会は、最近はどんどん無くなっていってしまっているので、このプロジェクトからまた、お隣にお惣菜を持っていって「ちょっと作りすぎちゃった」というような関係性ができたら嬉しいです。
住み始めてからのワークショップも含めて考える
―コミュニティが育まれる場所を作るうえでほかに意識していることはありますか?
斉藤さん
アラキ+ササキアーキテクツさんの特徴として、体験型ワークショップを事務所で企画されることもあるのですが、そういったワークショップや地域のイベントも積極的に実施していこうと考えています。
具体的にはこれから詰めていくところですが、例えば山林側の整備のワークショップや、アラキ+ササキアーキテクツさん独自の「モクタンカン」というDIYのワークショップ、それから共有リビングの貸し出しをして、お店を出したい人に実際に料理を出してもらうなど、そういった地域を活性化できるようなイベントをおこなっていきたいです。
荒木さん
建物と山との間の平地は広く500㎡程度あるのですが、菜園や広場など暮らす人が多目的に使える余白として残しています。山ももちろん使えるので、シイタケ栽培などもできますし、山の奥にも広い平場が確保できているので、そこには子どもたちが遊べる場所や、大人もくつろげるような場を作れるかなと思っています。
住民同士の物の貸し借りができるようにしたい、というお話も出ています。例えばあまり頻繁には使わない家電をシェアするとか、そういったやりとりがしやすいようにハードの設計をしていきたいですし、ソフトの仕組みも運営側として作っています。
住む人がカスタマイズできる余白を残した内装
―専有部分はどのような工夫をされているのでしょうか。
久保さん
事業用の集合住宅は通常、床面積をいかに多く取るかを考えるような形になるのですが、今回は普通の集合住宅とは違う住み心地が感じられ、その住み心地の良さがコミュニティを作るきっかけになるような、今までにない集合住宅になるといいなと思いチャレンジしています。
荒木さん
12部屋すべてのプランがそれぞれ違うプランとなっていますしね。
久保さん
そうですね、メゾネットはわりと似ているかもしれませんが、それでもプランは多少違いが出ていますから、ほぼ全部がそれぞれ独自のつくりです。
荒木さん
多様な人が思い思いに過ごせる場所を作っていくうえでは、単調さというよりは複雑性があり、多様な過ごし方を受け入れる状況が備わっていることが大切だと思います。
コンペ時に提案した分散型の住棟も、その多様な過ごし方をどう織り込んでいくかということの一つの形だったかと思っていて、そういった観点で住戸のプランもそれぞれ違い、それが外観にも表れてきて、結果として複雑性が生まれていくということを考えているのかなと思います。
久保さん
プロジェクトオーナーの鳥谷さんも住む人の多様性を大切にしたい、とお話しされていますが、全部が同じ間取りだと同じような考えや立場の人が集まってしまいがちです。ファミリーがいたり、カップルやご夫婦がいたり、お一人さまがいたりというような多様性がうまれる全体計画にしようというのはプロジェクト全員の共通認識になっていますが、その結果のひとつとして、自ずとプランもバラバラになっていきました。
また、住む人が手を加えたり、カスタマイズできるようにということも考えています。例えば水回りの洗面台のまわりは、既製品の収納セットをそのまま入れるのではなくて、オープンな棚を作ったり、壁に彫り込みを作っておいて、あとで住む人が使いやすく手を加えられるような形にしています。オープンの棚は無印良品などの収納用品がすっぽり入るようなサイズに調整しておくことで、よりたくさん収納したい人は収納力を上げられ、すっきり見せる収納にしたい人はオープンのまま使えます。
一般的な集合住宅にあるような、既製品のユニットを入れるだけとはひと味違うような作り方にできるかなと思っています。
斉藤さん
コミュニケーションを取りやすくする目的で、各住戸のキッチンはあえて控えめのサイズにしています。共有リビングのキッチンは大きいですからね。そちらを使ったほうが料理はしやすいと思います。そこで自然と、「今日の晩ごはんは何にするの?」「一緒に作ろう」といったさりげない会話が生まれてほしくて。
設計の想定を超える暮らしをしてほしい
―最後に、「Crossing Sasuke」に住んでみたいという方に向けてメッセージを。
荒木さん
いろいろと考えて計画はしていますが、一方でこれまでお話ししてきたような想定を思い切り超えてくる暮らし方がきっと生まれるんだろうとも思っているんです。住む人によって、この場所がどう変わっていくのか、設計者としてもとても楽しみです。
久保さん
設計しながら何度も敷地に通っていて思うことは、やはり山の豊かさです。季節によってどんどん変化していく自然の力、土地の歴史が感じられる環境がとても魅力的だと実感します。この山とともに暮らす、ということに興味を持った方にぜひ住んでいただきたいなと思っています。
斉藤さん
久保さんと荒木さんが作ってくださったベースを、本当に活かしていくのはそこに住む方々です。そのためのコミュニティづくりやつながりのきっかけづくりを、運営側でもサポートしていきます。等身大の自分でいられる場所に、みんなでしていきましょう。
追記|CROSSING SASUKEプロジェクトについて
本記事は、CROSSING SASUKEが実現に向けて歩んでいた2022年に制作したものです。
2024年1月、プロジェクトオーナーの鳥谷奈々子さんが逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。同年3月、CROSSING SASUKEプロジェクトは事業撤退という判断に至り、計画は実現には至りませんでした。
一方で、このプロジェクトに向き合った時間は、私たちに大切な視点を残してくれました。
賃貸住宅は、単に住まいを提供するだけのものではなく、人と人、人と地域、そして自然とのつながりを穏やかに育む場になり得ること。互いの自立を尊重しながら、必要なときには支え合える「つかず離れず」の関係が、暮らしと地域の双方を豊かにするということです。
建物として完成することは叶いませんでしたが、鳥谷さんが大切にされていた「そこに住まう人・家族・地域の人々が共に助け合い、学び合い、刺激し合い、ほっとする場所」という考えは、今も私たちの中に息づいています。
本記事を、その想いと、関係者の皆さまと重ねた歩みの記録として公開いたします。CROSSING SASUKEを通じて得た学びを、これからの建築とまちづくりへ丁寧につないでまいります。


