
Crossing Sasuke が考える“豊かさ”のかたち
「鎌倉に新しくできるコミュニティ重視型アパートメント」 そう聞いて、あなたはいま、何を想像しただろうか。 「賑やかそう」「若い人が多そう」「楽しそう」、はたまた「コミュニティは面倒そう」と考 えた人もいるだろう。 鎌倉駅前の喧騒からほんの少し離れて、風や葉のすれる音の中に立ち止まりたくなるよう な空気のある鎌倉佐助。そこに誕生する新しいコミュニティ重視型アパートメント 「Crossing Sasuke」には、これまでの「シェアハウス」の印象とはどこか違う、それぞれの 人生の豊かさが穏やかに重なり合う、成熟した大人のための居場所ができるそうだ。 そこで、プロジェクトオーナーの鳥谷さん、プロジェクトマネジャーの斉藤さんに、 「Crossing Sasuke」で育まれるコミュニティのビジョンについて聞いた。 お話をうかがったのは
「鎌倉に新しくできるコミュニティ重視型アパートメント」
そう聞いて、あなたはいま、何を想像しただろうか。
「賑やかそう」「若い人が多そう」「楽しそう」、はたまた「コミュニティは面倒そう」と考
えた人もいるだろう。
鎌倉駅前の喧騒からほんの少し離れて、風や葉のすれる音の中に立ち止まりたくなるよう
な空気のある鎌倉佐助。そこに誕生する新しいコミュニティ重視型アパートメント
「Crossing Sasuke」には、これまでの「シェアハウス」の印象とはどこか違う、それぞれの
人生の豊かさが穏やかに重なり合う、成熟した大人のための居場所ができるそうだ。
そこで、プロジェクトオーナーの鳥谷さん、プロジェクトマネジャーの斉藤さんに、
「Crossing Sasuke」で育まれるコミュニティのビジョンについて聞いた。
お話をうかがったのは
はじまりは、1 件のショートメール
―今まさに計画中の「Crossing Sasuke」ですが、そもそもこのプロジェクトが始まったきっ
かけを教えてください。
斉藤さん
2018 年に、当時私が所属していたリノベーション会社のお客様として鳥谷さんに出会った
のがはじまりです。
鳥谷さんがご家族と暮らすための物件探しとリノベーションのコーディネートコンサルテ
ィングを私が担当して、お話をする中で「女性専用のシェアハウスをいずれ運営してみたい」
ということをおっしゃっていたのです。
鳥谷さん
今の「Crossing Sasuke」では、女性や犬に限定することはなく、むしろご夫婦やファミリー、
高齢者の方など多様性を重視していますが、きっかけはそんなアイデアからでしたね。
具体的には、犬を飼っている独身女性のためのシェアハウスを考えていました。人生 100 年
時代と言われている中で、自分を含めた独身の方々は一人でどう暮らしていくのだろう、と
思っていて。犬についても、独身で犬を飼っていると行動が制限される部分があったり、働
いている以上してあげられないことも出てきてしまうんですよね。
そんなふうに同じ悩みをもつ人が集って、助け合える場所をつくってみたらどうだろうっ
ていうふうに思っていたんです。
最終的に鎌倉の今の家に住み始めて、しばらくその話は頭の隅に置くだけになっていたの
ですが、ある日犬の散歩をしていると鎌倉佐助に大きめの空き地が出ていることに気がつ
いて。
緑がいっぱいで空も開けていて気持ちの良い土地だったので、「これから何ができるのかな」
となんとなく思っていたら、斉藤さんから来たんですよ。ショートメールが。
斉藤
「こんな土地がありますけど、シェアハウスの話どうされます?」と、資料を送りました。
それが偶然、鳥谷さんも気にされていたその土地だったんですよね。
鳥谷さん
「え、なんでこの土地気にしてるのわかったの?」って、びっくりしました(笑)。
その時はまだ「いつかやりたい」と考えていただけでしたし、土地も大きくて当初の想定の
4 倍の規模になりそうだったので、とても迷いました。
ただ自分の仕事の転機もあり、時間や精神的な余裕が出てきて、自分の人生の次をどうしよ
うと考えていた時期でもあったので、斉藤さんが出してくれた計画図や間取りを見ながら
決心して、2021 年 6 月に土地の契約を終え、プロジェクトがスタートしました。
今決まっていることは全部で 12 戶、30 ㎡前後のワンルームや 60 ㎡前後のメゾネットやフ
ラット住戶、また共有スペースとしてはシェアキッチン・リビング、居住者でつくる菜園な
どがある共同住宅になる予定です。

「Crossing Sasuke」は住む人が自然体でいられる居場所
―きっかけのアイデアは女性がターゲットでしたが、いま「Crossing Sasuke」はどのような
コミュニティを目指しているのでしょうか?
鳥谷さん
テーマは、「そこに住まう人・家族・地域の人々が共に助け合い、学び合い、刺激し合い、
ほっとする場所」です。
住む人が自然体でその場にいられる空間ができるのが一番いいなと思っています。当然人
は一人では生きていけないし、ある程度は人と関わって生きていく中で、場所や役割によっ
て自分を使い分けている方も多いと思います。
特に仕事をしていると、立場に応じた成果を求められてどうしてもそちらに合わせていく
ことになってしまいますよね。でも時にそれが鎧をつけているようで苦しくなることもあ
るのではないでしょうか。
そういった鎧をつけた自分はここではもういい。なくていいやと、本当の自分、自分らしく
いられるあり方をここで見つけてもらいたいと願って、「Crossing Sasuke」をつくっていま
す。
斉藤さん
「Crossing Sasuke」という施設名には、いろいろなもの・ひと・ことの交差点という意味と、
人との縁や出会いをこの場所で共有していってほしいという願い。そして“Cross+sing”、
人生を共に謳歌するという、鳥谷さんが代表を務める Relenity のテーマの3つをかけ合わ
せています。
設計のテーマも「山とまちと人をつなげるランドスケープ」で、鎌倉らしい建物、気候、風
土、歴史、文化を守りながら 100 年後も愛されて、残したいと地元の方から思われるよう
な場所にしていこうということを考えながら進めています。
初鎌倉、初コミュニティ参加、一人好きもウェルカム
―「コミュニティ」と聞くと、中に入れるかなと少し身構えてしまいますが、「Crossing
Sasuke」では自分らしくいられる場所を大切にされているんですね。
鳥谷さん
コミュニティの「面倒くさそう」な部分は私も除外したいと思っているんです。
もちろん、人間同士がかかわる以上嫌いな人や合わない人はいるかもしれません。でも、そ
ういうのも受け入れていく面白さもあるかなということに気付いてもらえればいいなと思
って、多様な価値観をもつ住人の方々がストレスなく暮らせる、つかず離れずの距離を目指
しています。それが一番根幹かなと思います。
30 代から 40 ぐらいのご夫婦から、もちろんシングル、お子様の小さいファミリーも想定し
ていろいろなパターンの間取りを作っていますが、シニアの方も入居してほしいですね。例
えば、日中に時間の余裕があるシニアの方が、急遽子供のお迎えが必要になったママの手助
けをすることが起きたりするかもしれません。同じ年代でも、全然違う業界や業種の方がい
たほうが、考え方も多様性が生まれると思いますね。
そうやってお互いの時間をうまく融通し合ったり、できることを共有化していく。こういう
のが得意ということをみんなで提供しあえるといいですね。
斉藤さん
初鎌倉、初シェアハウスの方も大歓迎です。「一人が好き」という人でも問題ありません。
むしろ、これをきっかけに鎌倉に初めて住んで、住み替えてからもコミュニティにはホーム
タウンとして戻ってこれるような場所になってほしいと考えています。
鳥谷さん
プランとしても面倒くさくない距離感が保てるように、水回りは共有しない形で、全部住戶
それぞれが単独で住めるようにつくっています。
だから全然引きこもっててもいいんです。強制的に外に出ないと生活できないというのは
ちょっとしんどいですし、つくりたい場所とちょっと違いますね。
シェアハウスというより、北欧のコレクティブハウスの住居や暮らし方が近いと思います。
“人生の豊かさ”を育む、住む人の多様性
―そもそもこういったコミュニティをつくっていきたいと考えられた理由を教えてくださ
い。
育ってきた環境の原体験と、これまで取り組んできた仕事のテーマがバックボーンになっ
ていると思います。
私の育った環境は、親戚が敷地内にみんないて、ゆるくつながって、例えば夕食時に「ちょ
っといっぱい作っちゃったから」と分けあったりするようなことを日常的にし合うような
ところでした。親と喧嘩した時も親戚の家がうまく逃げ場になって、伸び伸びリフレッシュ
してから帰ったら親との関係性がよくなったり。そういった、近くに頼れる人がいてよかっ
たと感じる原体験があったんですよね。
仕事ではずっと人材開発に携わってきて、マネジメントも経験したことで「自分が一体何が
できる人なんだろう?」とか「自分らしく生きるって何だろう?」とか、「人として豊かっ
てなんだろう?」ということをずっと考えてきました。
「豊かさ」はこの「Crossing Sasuke」をつくる上でのキーワードになっていて、私はそれは
人とのかかわり合いや助け合いの中で生まれていくと思っています。
表層的なコミュニケーションではなく、ときには互いのことを想って発言できるような関
係性。「Grow(成長)」であり「Maturity(成熟)」。そういうコミュニケーション基盤をここ
は持っている、と言えるようなコミュニティにしたいです。
全く同じ価値観の人だけだと新しい気付きや刺激は生まれにくいですから、やはり住人の
方の年代や培ってきた経験の多様性はやはりとても重要ですね。

自然と食をテーマに、地域へと人の輪が広がる
―そんな多様な方々がどうやってコミュニティをつくっていくんだろう、というのがとて
も気になります。
鳥谷さん
このコミュニティをどうつくっていくのかということはずっと考えてきました。「Crossing
Sasuke」は敷地内に山林と平地スペースがあるので、山や自然の恵みと食とをつなげて共
通テーマにし、つながりをつくるきっかけにしようと考えています。
さらに建てたら完成というわけでもなくて、実は敷地内にあえて用途を決めきらない部分
をつくっていて、コミュニティから生まれてきた考えで編集していける“余白”を残していま
す。特に山林側の広場と自然はこれからみんなで考えていく予定で、例えば住む人が「ここ
で牛を飼おう」と言って、みんなが「うん」と言ったらそれもありなんです(笑)。
単なる山林や菜園つきのシェアハウスですと、何もなかったところに「こういう面白い施設
を作りました、みんな来てね」ではなくて、自然や人、お店などの営みといったはじめから
この鎌倉にあった豊かさをそのまま活かしながら、それに逆らったり壊すことなく、
そこに人と人が豊かに、人生を謳歌する暮らしを育んでいきたい、と思っています。
なんでしょうね、都会の自立感と田舎の温かさみたいなイメージです。
ですから、この土地について私は購入したことにはなるのですが、今はこの土地を“お借り
している”という感覚なんですね。
斉藤さん
そうですね。この土地だけでなく、コミュニティを通じて鎌倉という街そのものの価値をシ
ェアしていきたいですし、このコミュニティからも、地域に対していろいろな価値を発信し
ていくことをイメージしてつくっています。ご近所の方や鎌倉の企業、個人店、そういった
つながりで「Crossing Sasuke」の共有リビングを使ってワークショップとか、そういう活動
が生まれていってほしいですね。
鳥谷さん
ここでマルシェを開いたり、キッチンカーを並べてご近所の方が食事を買うことができる
ようにすることも考えています。そうやって、地域や鎌倉エリアの方々にも必要とされ、愛
されて、永く人の輪が広がっていく起点となって、その人とひととのつながりが住人の方の
人生をさらに豊かにしてくれるような、そんな場所にしていきたいですね。
追記|CROSSING SASUKEプロジェクトについて
本記事は、CROSSING SASUKEが実現に向けて歩んでいた2022年に制作したものです。
2024年1月、プロジェクトオーナーの鳥谷奈々子さんが逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。同年3月、CROSSING SASUKEプロジェクトは事業撤退という判断に至り、計画は実現には至りませんでした。
一方で、このプロジェクトに向き合った時間は、私たちに大切な視点を残してくれました。
賃貸住宅は、単に住まいを提供するだけのものではなく、人と人、人と地域、そして自然とのつながりを穏やかに育む場になり得ること。互いの自立を尊重しながら、必要なときには支え合える「つかず離れず」の関係が、暮らしと地域の双方を豊かにするということです。
建物として完成することは叶いませんでしたが、鳥谷さんが大切にされていた「そこに住まう人・家族・地域の人々が共に助け合い、学び合い、刺激し合い、ほっとする場所」という考えは、今も私たちの中に息づいています。
本記事を、その想いと、関係者の皆さまと重ねた歩みの記録として公開いたします。CROSSING SASUKEを通じて得た学びを、これからの建築とまちづくりへ丁寧につないでまいります。


