木壁に敷地調査の写真や地図、資料が多数貼られたリサーチ展示。「敷地」「山」「水」「集う」などの見出しとともに、鎌倉の地勢や敷地周辺の写真が並ぶ

共同設計で向き合う唯一無二の居場所づくり①

「Crossing Sasuke」は小規模な共同住宅のなかでは珍しく、2社による共同設計によって計画されている。ひとつとして同じ間取りがないという“2棟12戸”にこだわりをつめこんだ、アラキ+ササキアーキテクツの荒木さん、久保都島建築設計事務所の久保さんの2社と、プロジェクトマネジャーを務めるS/CAPEの斉藤さんにその意図をうかがった。 お話をうかがったのは

「Crossing Sasuke」は小規模な共同住宅のなかでは珍しく、2社による共同設計によって計画されている。ひとつとして同じ間取りがないという“2棟12戸”にこだわりをつめこんだ、アラキ+ササキアーキテクツの荒木さん、久保都島建築設計事務所の久保さんの2社と、プロジェクトマネジャーを務めるS/CAPEの斉藤さんにその意図をうかがった。

お話をうかがったのは

土と山、光と風をもっともよく知る2つの設計事務所

―この規模での共同設計は珍しいかと思いますが、そこに至った経緯を教えてください。

斉藤さん

たしかに、この規模を複数社で取り組むことはあまりないかもしれませんが、アラキ+ササキアーキテクツさんも久保都島建築設計事務所さんも前々からお付き合いがあり、実績をよく知っていたこともあって、共同設計でも大丈夫だという安心感はありました。

アラキ+ササキアーキテクツさんは、敷地や状況を丁寧に調べ、深く知り、自ら手を動かして考えるというスタンスが特徴です。山林付きという稀有な条件の土地にコミュニティが育つ共同住宅を作るという「Crossing Sasuke」のプロジェクトに必要なアプローチだと思って、お声掛けをしました。

▼アラキ+ササキアーキテクツの設計理念

□A+Sa設計理念
人間の知性と知覚に訴えかける建築の力を信じて、その場に立つ人のための建築をつくる。
目新しさを追わず、永く愛される親和性の高い建築を目指す。
材料の本質を探究し、誠実に扱う。

□A+Sa設計方法論
1.状況から発見する
御要望・用途・敷地条件・時代背景など、その建築が置かれている状況から、その建築固有の設計戦略を発見する。

2.手で思考する
積極的に手を使ってドローイング・模型・試作などを制作し、思考の幅を広げる。
「頭で考えたこと(垂直思考)」と「手で考えたこと(水平思考)」を融合させて、ひとつの形ある建築をつくる。

3.根拠ある判断を積み重ねる
成果物である建築には思考の質や量が表れるので、現地調査から設計監理まで終始根拠ある判断を積み重ねる。

斉藤さん

戸建ての多い鎌倉で普通のフラットのマンションを作るつもりは全くありませんでしたから、戸建ての経験豊富なアラキ+ササキアーキテクツさんならばうまくそのエッセンスを活かしてくれるだろうと思いました。
木材をふんだんに使った温かみのある家を得意とされている印象があり、そこが今回の鎌倉という立地やプロジェクトのテーマに合致しました。

―久保都島建築設計事務所さんについてはいかがでしょうか。

斉藤さん

久保都島建築設計事務所さんは、室内環境、とくに風や空気の流れを緻密にシミュレーションして、数字で表すのが特徴的で、光の入り方や回り込み方までしっかりと計算した設計ができるので、アラキ+ササキアーキテクツさん同様、今回の自然を活かした住まいを考えるうえで欠かせない要素だと考えていました。

久保さん

光や風の入り方はCGでシミュレーションをしています。どの時間帯に、どんなふうに光が入るかがわかります。
温浴施設など、本当にシビアな場合は厳密な通風のシミュレーションをかけますが、住宅の場合はどちらかというとCGシミュレーションをもとに「こう窓を開けると風がうまく流れる」などと試行錯誤しながら設計しています。

▼久保都島建築設計事務所の設計理念(コンペ時の提案資料より抜粋)

3つの設計理念
久保都島建築設計事務所では下記の3項目を重視しながら設計を進めていきます。

1.環境をデザインする私たちは建築空間をもう一つの環境、自然環境のオルタナティブとしてデザインしています。 光、音、熱、風といった自然環境の要素を大切にしながらも、人工的な操作を加えながら取り込むことで、より人 にとって居心地のよいスペースをつくることを目指します。自然環境の一部を空間化したスペースと捉えることで 多くの発見的、実践的なアイデアを実現していきたいと考えています。

2.CGを使ったクライアントとのコミュニケーション設計の初期からCGをつかってデザインを見える化します。図面だけではイメージしにくい立体的なデザインや素 材をCGによって分かりやすくすることや、デザインを数パターン作成しての比較などを行い、クライアントがデザ インに参加しやすい打ち合わせを心掛けます。

3.コストに配慮したデザイン本プロジェクトは事業という側面もありますので、建物構造の選定、建物の配置計画、建材などコストを意識しな がらご提案します。

久保さん

弊社は商業施設、特に温浴関係や宿泊系の実績が多いです。
私が独立して一番最初に設計した建物は旅館の風呂小屋でした。群馬のほうの田舎で旅館の小さいお風呂を設計したことをきっかけに、宿泊系と温浴系が多くなっていった経緯もあります。

斉藤さん

2社とも、男女ペアで設計をされているからか、とてもバランスがとれている印象です。男性的にも、女性的にもどちらにも振れる幅の広さを感じます。

真逆の提案からはじまったチーム

―プロジェクト内での2社の役割分担はあるのでしょうか?

斉藤さん

アラキ+ササキアーキテクツさんに統括設計をお願いしており、久保都島建築設計事務所さんに共同設計で入っていただく形をとっています。
このプロジェクトの設計を決める際にコンペをおこなったのですが、久保都島建築設計事務所さんとアラキ+ササキアーキテクツさんの提案は、なんと真逆の考えのプランでした。
本当は統括設計、つまりメインの全体のデザインをコンペで選ばれた1社が担当し、内装の部分をそれ以外の会社さんにお願いしようと考えていました。ただ、本当に久保さんと荒木さんのプランが真逆へ行っていて、どちらにも良さがあったので、これは困ったなと(笑)。

―プランが真逆だったというのは?

斉藤さん

アラキ+ササキアーキテクツさんがそれぞれの住居が戸建てのように独立した分散型、久保都島建築設計事務所さんは集約型のゾーニングを提案してくれました。
どちらかといえば分散型のほうがプロジェクトのイメージには合っていたのですが、山林部分の条例を守ろうとすると集約型にする必要もあり、結果的に2社にお願いをして、快諾いただいたというのが経緯です。

また、私自身も過去に設計をおこなっていた際に、出した案そのものが一番の価値であるはずなのに、選ばれなかったというだけで対価を何も支払われないというコンペの仕組みそのものに疑問を感じていました。良い案を出してくださった分はお返ししたい、と考えていたこともあって、共同設計という形をご提案したのです。

荒木さん

今は全体と内装、というような仕切り方はしておらず、“AS棟”と“KT棟”といった形で、久保都島建築設計事務所さんがメインで設計する場所と、我々がメインで設計する場所をプラン上で分けています。

―AS棟、KT棟というのはまさか?

荒木さん

はい、アラキササキと久保都島です(笑)。

斉藤さん

2社がOKしてくださるならば、KT01(ゼロワン)、02(ゼロニ)といった部屋番号にしたいとも考えています。棟によって2社それぞれの個性が出ているので、ぜひじっくりと見比べてみていただきたいです。

山とまち、双方に向き合う設計コンセプト

▼「Crossing Sasuke」の設計コンセプト

#山とまちと人をつなげるランドスケープ
#山林付き環境配慮型集合住宅
#山を守り人を守る
#コラボレーションデザイン
#新たな土着性

―設計のコンセプトについて詳しく教えてください。

荒木さん

最初のコンペ案が集約と分散で異なっていた点にも表れているのですが、我々はどちらかというと“山側”を向いていて、久保さんたちはどちらかというと“まち側”を向いていたと思います。
だからこそ共同設計にしようとなった際に、山とまちの両方を向いてそれらをつなげ、人をつなげる場所にしていこう、というふうに話がまとまりました。それが「山とまちと人をつなげるランドスケープ」です。

―山林と向き合った部分についてはいかがでしょうか。

荒木さん

設計をコンペで依頼され敷地を見にいった時、とにかく山に圧倒されました。あのような環境はなかなかあるものではなく、この敷地を、山を考えずに設計することはできないな、というのが第一印象でした。
我々は「状況から発見する」、つまりその土地が持っている情報から考えていくことを方法論のひとつとしていますが、佐助の山の地勢と言える、気候や風土や地形をさらに調べていくなかで、やはり鎌倉のあの場所ではあの山を取り込んだ生活をしていくべきだろうと考えました。

山によって人の健康が保たれ、山と一緒に暮らしていくという着想から始まり、そこから山の健康も守られる形をとれば住宅地も健全になっていくという考えにつながって、それに必要なものは何か?と突き詰めていった結果うまれたのが「山林付き環境配慮型集合住宅」「山を守り人を守る」といったキーワードです。

久保さん

「コラボレーションデザイン」については、設計者だけではなくて、山の手入れをする高田造園さんや、地元の方、個人のデザイナーの方などいろいろな方々が関わっていて、関係者が多いプロジェクトといった点に表れていますね。

斉藤さん

あえて多様な立場の人を巻き込んでいるという意図があります。

Webデザインやロゴなども、今回のプロジェクトに共感いただいた方々に個々にお願いしています。1社のクリエイティブエージェンシーに丸ごとお願いしたほうが楽かもしれませんが、ここはプロジェクトオーナーの鳥谷さんの人柄ですね。頑張っている人を応援してくださる方なのです。
私自身も応援していただいていますし、投資家というよりも“応援者”といった印象です。極端にいえば「失敗してもいいよ、だから一緒にやっていこうね」というような。人材育成に携わってこられたからこそのスタンスですね。

―残る「新たな土着性」というキーワードについてはいかがでしょうか。

荒木さん

矛盾するようですが、この環境を活かそうとするうえで、土着性を目的にするべきではないと思っています。表層的な土着性を求めたり、原理主義になるということではなく、山と一緒に暮らすというのは豊かさの一つの手段であって、最終的な目的はやはり人がどう回遊して、住む人や来た人たちにどう楽しんでいただくか、そしてその人の過ごし方や多様な過ごし方ができる場所を作っていく部分にあると考えています。

そういった意味で、土着性そのものを目的にするのではなく、結果として付いてくるような形で作っていけたら良い、と思っています。それがどういった新しさなのかはまだ分かりません。結果としてそう在るように、と考えているところです。

追記|CROSSING SASUKEプロジェクトについて

本記事は、CROSSING SASUKEが実現に向けて歩んでいた2022年に制作したものです。

2024年1月、プロジェクトオーナーの鳥谷奈々子さんが逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。同年3月、CROSSING SASUKEプロジェクトは事業撤退という判断に至り、計画は実現には至りませんでした。

一方で、このプロジェクトに向き合った時間は、私たちに大切な視点を残してくれました。

賃貸住宅は、単に住まいを提供するだけのものではなく、人と人、人と地域、そして自然とのつながりを穏やかに育む場になり得ること。互いの自立を尊重しながら、必要なときには支え合える「つかず離れず」の関係が、暮らしと地域の双方を豊かにするということです。

建物として完成することは叶いませんでしたが、鳥谷さんが大切にされていた「そこに住まう人・家族・地域の人々が共に助け合い、学び合い、刺激し合い、ほっとする場所」という考えは、今も私たちの中に息づいています。

本記事を、その想いと、関係者の皆さまと重ねた歩みの記録として公開いたします。CROSSING SASUKEを通じて得た学びを、これからの建築とまちづくりへ丁寧につないでまいります。

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