ビル・店舗の内装|内装制限緩和が拓く木材あらわし店舗

木を隠さない店舗という選択——内装制限緩和が拓く「木材あらわし」のブランディング

改正建築基準法により、大規模建築物でも構造材の木を「あらわし」で見せる設計の道が広がりました。結論から言えば、木を隠さない店舗は法規と設計の組み立て次第で現実的な選択肢です。改正の要点、耐火・準耐火の考え方、ESG文脈での企業価値、そしてテナント内装特有の工事区分・工期の勘所までを整理します。

  • 令和4年(2022年)6月17日公布の改正建築基準法により、3,000㎡超の大規模建築物でも構造材を「あらわし」で見せる設計が可能な構造方法が導入された(国土交通省)
  • 準耐火建築物であれば燃えしろ設計で柱・梁のあらわしが可能。内装制限の対象は主に天井と壁で、床・高さ1.2m以下の腰壁・巾木・廻縁・窓台は対象外とされる
  • 林野庁はESG投資を背景に木材利用の評価ガイダンスを策定。木質内装による快適性向上が賃料・入居率に反映される可能性が検討されている
  • テナント内装ではA/B/C工事区分の確認が先。天井を開ける計画はB工事の境界に触れやすく、契約前の書面確認が追加費用を防ぐ
  • 用途変更・消防・バリアフリー法規は基本設計の段階で同時検討。木材あらわしは「見えるものが仕上げ」であるため、内装監理の効き目が大きい

内見の日、スケルトン渡しの区画は、天井裏の配管とコンクリートの梁がむき出しのまま静かに待っていました。担当者が「ここから、どう仕上げますか」と尋ねます。石膏ボードで覆い、クロスを貼り、どこかで見たような空間をもう一つ増やすのか。それとも、構造の木をそのまま見せる店にするのか——。この記事では、大規模建築物の木造化を後押しする防火規定の合理化を出発点に、木材あらわしが法的にどこまで可能で、ブランドにとって何を意味し、テナント内装の実務ではどこでつまずくのかを、順を追って整理します。

木を隠さなくてよくなった——改正建築基準法の要点

結論から言えば、「大規模=木を隠す」という前提は、法制度の側から更新されつつあります。国土交通省によれば、令和4年(2022年)6月17日公布の改正建築基準法(令和4年法律第69号)により、3,000㎡を超える大規模建築物を木造とする場合に、構造部材の木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能な新たな構造方法が導入されました(国土交通省「中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化」)。

改正前は、3,000㎡超を木造とする場合、主要構造部を耐火構造等とするか、3,000㎡以内ごとに高い耐火性能を有する構造体で区画することが求められました。前者では木部を石膏ボードなどの不燃材料で被覆する必要があり、利用者が木の良さを実感しづらい。後者では建築物を二分化せざるを得ず、設計上の制約が多い。この二つの課題が、改正の背景にあったとされています(国土交通省住宅局「設計者・工務店の皆様へ 改正建築物省エネ法・改正建築基準法」)。

あわせて、防火壁等で有効に区画された建築物の部分であれば、1,000㎡を超える場合でも防火壁等の設置が不要となりました。さらに、高い耐火性能の壁や十分な離隔距離をもつ渡り廊下で分棟的に区画された建築物は、高層部・低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱えるようになり、同一敷地内で低層部分だけを木造化する計画が組みやすくなっています(国土交通省「部分的な木造化を促進する防火規定の合理化」)。

改正前と改正後で変わった大規模木造建築物の防火規定を比較した図解
改正前後で変わる木造の防火規定(出典: 国土交通省住宅局「中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化」)

柱・梁を見せる法的根拠——耐火・準耐火・内装制限の三層で考える

木材あらわしを検討するとき、実務では三つの層を分けて考えます。①構造の防耐火(耐火建築物か、準耐火建築物か、その他か)、②内装制限(天井・壁の仕上げ材への規制)、③テナント特有の管理規約や工事区分です。このうち①と②を混同すると、「木を見せられるはずが、確認申請の段階で覆うことになった」という手戻りが起きます。

①については、2019年6月施行の改正建築基準法で防耐火に関する各種合理化規定が整備され、耐火構造と同等の性能をもつ高度な準耐火構造が位置づけられました。準耐火建築物では、燃え進む厚みをあらかじめ断面に見込む「燃えしろ設計」により、柱や梁を木材あらわしとすることが可能です(一般社団法人日本木造住宅産業協会「耐火・準耐火構造」国土交通省住宅局「中大規模木造建築物に係る防火基準の全体像と設計手法のポイントについて」)。木造の店舗では、一般に3階建て以上は耐火建築物、2階建てで床面積合計500㎡以上は準耐火建築物とする必要があり、規模が上がるほど要求性能も上がります。

②の内装制限が対象とするのは、主に天井と壁の仕上げです(建築基準法施行令第129条)。床材、床面から高さ1.2m以下の腰壁、巾木、廻縁、窓台などは制限の対象外とされており、これらの部位には防火性能をもたない無垢材を採用できる余地があります。内装制限が適用される規模に達しない小規模店舗であれば、内装を木の「現し」で構成する計画も現実的です。ただし用途・規模・区画・排煙計画によって適用は変わるため、必ず所轄の特定行政庁・消防と事前に確認してください。素材そのものの経年については、無垢の床が育てる時間についてまとめたコラムもあわせてご覧いただくと、仕上げの選び方が立体的になります。

木造店舗の防耐火三区分と、木材あらわしの可否を整理した比較表の図解
防耐火三区分とあらわしの可否(出典: 日本木造住宅産業協会「耐火・準耐火構造」/国土交通省住宅局資料)

サステナブル・ブランディングの武器としての木質内装

木を見せる判断は、意匠だけの問題ではありません。国は建築物への木材利用を、炭素貯蔵やエンボディドカーボン(建設段階で排出される二酸化炭素)削減の観点から政策的に位置づけています(国土交通省「建築物への木材利用の促進に向けた取組」)。2021年の木材利用促進法改正により、木造化・木質化を促す対象は公共建築物から民間建築物まで広がりました。

投資家や金融機関に対する説明の枠組みも整いつつあります。林野庁は、ESG投資の拡大を背景に「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」を策定し、温室効果ガス排出削減・炭素貯蔵・快適性向上といった効果を訴求できるよう評価環境の整備を進めています。同庁の検討資料では、内外装の木質部材の活用によって快適性が向上すれば、賃料や入居率の上昇という形で建築物の価値に反映されることが期待される、と整理されています(林野庁「ESG投資等における建築物への木材利用の評価に関する検討<概要版>」)。

ここは慎重に読む必要があります。「木を使えば賃料が上がる」という保証ではなく、快適性の向上が価値に反映され得るという期待の整理です。ただ、統合報告書やサステナビリティ開示で語れる素材を、店舗という最も人目に触れる場所に持てること自体が、事業者にとっての実利になります。産地・樹種・調達の経緯まで説明できる木は、内装材であると同時に、ブランドの物語の一部になります。

設計の現場:あらわしと防火性能を両立させる考え方

設計の現場では、木材あらわしは「全か無か」で決めません。規制の強い部位と弱い部位を読み分け、見せる木を絞り込むことで、法規とコストの折り合いをつけます。天井は不燃・準不燃で構成し、腰壁と造作を無垢で組む。あるいは、区画の考え方を整理して低層部だけを木造化し、そこに人の滞在時間が長い機能を寄せる——といった判断です。

実際、木造の耐火建築物を現実的に計画し、デザインとコストを両立させるうえでは、構造躯体の柱や梁を見せることに固執しない設計が有効な場合もあります。あらわしの追求と防耐火・コストのバランス調整こそが、設計者の仕事の中心にあります。手が触れる高さ、視線が集まる面、写真に写る一角。木の効果が最大化する場所を先に決めてから、法規の側で成立させていく順序が実務的です。

「どこまで木を見せるか」ではなく「どこの木が、来店した人の記憶に残るか」から逆算する。設計の現場で最初に交わす問いは、たいていこれです。

テナント内装の実務——工事区分・用途変更・内装監理

ビルインの店舗やオフィスで木質内装を計画するとき、法規と同じくらい重要なのが工事区分です。一般に、貸主の負担・施工で行うものをA工事、借主の要望により貸主指定業者が施工し借主が費用を負担するものをB工事、借主の負担・施工で行うものをC工事と呼びます。防災設備・空調の幹線・防火区画に関わる部分はB工事に振られることが多く、木材あらわしのために天井を開ける計画は、この区分の境界線に触れがちです。区分の取り決めはビルごとに異なるため、契約前の段階で管理会社に書面で確認しておくことが、後の追加費用を防ぎます。

法規面では、①用途変更(事務所から飲食店へなど、特殊建築物に該当する用途で一定規模を超える場合の確認申請)、②消防(防火対象物使用開始届、内装制限、消火・警報・避難設備)、③バリアフリー法および各自治体の福祉のまちづくり条例(出入口幅、段差、便所の仕様)の三点を、基本設計の段階で同時に検討します。木を見せる意匠は、この三点の要求と衝突しやすい箇所——天井、避難経路の壁面、出入口まわり——に集中します。

そこで意味を持つのが内装監理です。設計事務所が施工者と別に立つことで、図面どおりの防火材料が使われているか、B工事とC工事の取り合いが宙に浮いていないか、行政・消防協議の条件が現場に伝わっているかを、第三者の目で確認できます。木材あらわしのように「見えるものが仕上げそのもの」である計画では、施工精度と検査対応の両方に監理の効き目が出ます。

テナント内装で木材あらわしを採用する場合の開業までの手順を示したフロー図
開業までの逆算フロー(出典: S/CAPE編集部)

コストと工期、そして顧客体験へ——導入前に確認したい数字

木材あらわしのコストは、材料単価よりも「どの防耐火グレードで成立させるか」に左右されます。準耐火で燃えしろ設計を用いるのか、耐火構造の中で認定工法を選ぶのかで、断面寸法も納まりも変わるためです。制度面では、階数5以上9以下の建築物の最下層について90分の耐火性能でも設計できるよう基準が合理化されるなど、過剰な仕様を避ける余地は広がっています(国土交通省住宅局)。

工期については、用途変更の確認申請と消防協議の期間を、施工期間とは別枠で見込むことが要点です。木材は含水率管理と加工の段取りが品質を左右するため、発注から搬入までのリードタイムも早めに固めます。加えて、資材価格は国際的な要因で動きます。着工時期の判断材料としては、断熱材・塗料の値上げと着工タイミングを整理したコラムが参考になります。省エネ基準との関係を含めた外皮の考え方は、日射遮蔽と軒の設計についてのコラムでも触れています。

最後に、集客の話をします。木を見せる店舗が強いのは、写真に撮られたときと、二度目に来店したときです。塗り替えのきかない素材は、時間の経過が劣化ではなく履歴として現れます。国土交通省の建築着工統計に基づく各種集計では、店舗用途は依然として鉄骨造が主流とされており、だからこそ木質の空間は差異として認識されやすい。この差異を、内装制限緩和という制度の追い風のもとで、どこまで自社の言葉にできるか。それが、木を隠さないという判断の本質だと考えています。計画の初期段階での整理は、無料相談でもお受けしています。

よくある質問

小規模な店舗でも、内装を木材の現しにできますか。

内装制限が適用される規模に達しない店舗であれば、内装を木材の現しとすることが可能です。また内装制限が及ぶ場合でも、対象は主に天井と壁であり、床材や高さ1.2m以下の腰壁、巾木、廻縁、窓台は対象外とされています。用途・規模・区画によって判断が変わるため、所轄行政庁と消防への事前確認をおすすめします。

柱や梁を見せるには、必ず耐火建築物にしなければいけませんか。

いいえ。準耐火建築物であれば、燃えしろ設計により柱・梁を木材あらわしとすることが可能です(日本木造住宅産業協会)。加えて、令和4年公布の改正建築基準法により、3,000㎡を超える大規模建築物でもあらわしによる設計が可能な構造方法が導入されています(国土交通省)。

ビルのテナント区画で天井を現しにしたい場合、注意点は。

まず工事区分の確認です。天井内の防災設備・空調幹線・防火区画に関わる部分はB工事に振られることが多く、費用と施工者が借主の裁量外になる場合があります。契約前に管理会社と区分表を書面で確認し、消防設備の移設可否を含めて設計者に共有してください。

よくある質問

内装制限が適用される規模に達しない店舗であれば、内装を木材の現しとすることが可能です。内装制限が及ぶ場合でも、対象は主に天井と壁であり、床材や高さ1.2m以下の腰壁、巾木、廻縁、窓台は対象外とされています。用途・規模・区画によって判断が変わるため、所轄行政庁と消防への事前確認が必要です。
いいえ。準耐火建築物であれば、燃えしろ設計により柱・梁を木材あらわしとすることが可能です(日本木造住宅産業協会)。加えて令和4年公布の改正建築基準法により、3,000㎡を超える大規模建築物でも、あらわしによる設計が可能な新たな構造方法が導入されています(国土交通省)。
まず工事区分の確認です。天井内の防災設備・空調幹線・防火区画に関わる部分は貸主指定業者が施工するB工事に振られることが多く、費用と施工者が借主の裁量外になる場合があります。契約前に管理会社と区分表を書面で確認し、消防設備の移設可否を含めて設計者に共有してください。

参考資料

  1. 国土交通省「住宅:中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化」
  2. 国土交通省住宅局「設計者・工務店の皆様へ 改正建築物省エネ法・改正建築基準法」
  3. 国土交通省「住宅:部分的な木造化を促進する防火規定の合理化」
  4. 国土交通省住宅局「中大規模木造建築物に係る防火基準の全体像と設計手法のポイントについて」
  5. 国土交通省「建築物への木材利用の促進に向けた取組」
  6. 林野庁「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」
  7. 林野庁「ESG投資等における建築物への木材利用の評価に関する検討<概要版>」
  8. 一般社団法人日本木造住宅産業協会「耐火・準耐火構造」
  9. 経年変化を楽しむ素材選び——無垢の床が育てる、住まいの時間
  10. 中東情勢とナフサ高で断熱材・塗料が相次ぎ値上げ——2026年後半着工なら今、決めておきたいこと
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