
「二地域居住促進法」という追い風と、設計者が見る現地の視点
二地域居住の環境は、2024年11月施行の改正広域的地域活性化基盤整備法で確かに整いつつあります。ただし「二つ目の土地」の可否を決めるのは制度ではなく、造成履歴・排水・インフラ引込・冬季アクセスという地味な現地条件です。本稿では設計者が土地内見で必ず確かめる視点を、法制度の一次情報とともに整理します。
- ◆二地域居住に関する法規定を初めて盛り込んだ改正広域的地域活性化基盤整備法は令和6年11月1日に施行され、市町村計画制度・支援法人指定・協議会の3制度で構成される(国土交通省)。
- ◆国は施行後5年間で特定居住促進計画600件、二地域居住等支援法人600法人の指定を目標に掲げており、自治体ごとの取り組みの濃淡が情報収集の速度に影響する。
- ◆熱海市の盛土災害を契機とした盛土規制法(令和5年5月26日施行)により、規制区域内の盛土等は許可制となり、土地所有者等の維持責務も明確化された。造成地は「維持する立場を引き受ける」土地でもある。
- ◆冬季アクセスは豪雪地帯・特別豪雪地帯の指定区分を出発点に、除雪路線・雪の置き場・落雪の落ち先まで含めて評価する。
- ◆セカンドハウスは一般的な住宅ローンの対象外。フラット35のセカンドハウス向け利用では二重借入・賃貸利用ができず、住宅ローン控除の対象にもならない。
週末、スマートフォンに保存した物件情報を開く。写真には、稜線まで抜ける眺望と、きれいに整えられた平坦な造成地。価格は都市部の三分の一以下。「ここなら」と口に出しかけて、ふと手が止まります——この平らな地面は、いつ、どうやって平らになったのだろう。冬の朝、この道は上ってこられるのだろうか。
結論から申し上げます。二地域居住を支える制度は、この数年で確かに前進しました。けれども「二つ目の土地」の成否を決めるのは、制度ではなく現地の地味な条件です。造成の履歴、雨水の行き先、インフラの引込距離、そして季節ごとのアクセス。この記事では、法令・公的資料で確認できることと、設計者が現地で見ている実務上の視点を分けて整理します。
いわゆる「二地域居住促進法」が変える「土地選び」の環境
都市住民が都会と地方の双方に生活拠点を持つ「二地域居住」を法律上明確に位置づけたのが、いわゆる「二地域居住促進法」——正式には「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」(改正広域的地域活性化基盤整備法)です。独立した新法ではなく、既存法の改正である点に注意が必要です。2024年5月に成立し、国土交通省「地方振興:二地域居住の推進」によれば令和6年11月1日から施行されています。地域外に住所を持つ人が定期的な滞在のため居所を定める行為を「特定居住」と定義した点が、この法律の起点です。
制度の骨格は三つの連携で構成されます。市町村による特定居住促進計画制度の創設、二地域居住等支援法人の指定、そして関係者による協議会の組織。国土交通省国土政策局が作成した資料「二地域居住等の促進について」では、施行後5年間で支援法人の指定数が累計600法人という目標が示されており(国土交通省サイト掲載PDF)、促進計画の作成数についても施行後5年間で累計600件という目標が示されています(総務省サイト掲載PDF)。

土地探しの実務にとって重要なのは、この計画や支援法人が置かれている自治体では、住まいや働く場、地域との関わりに関する相談窓口が整理されつつあるということです。取り組みの状況は自治体ごとに差があるとみられ、候補地を絞る段階で、その自治体が促進計画を作成しているか、支援法人や相談窓口が置かれているかを各自治体の公表情報で確認しておくと、その後の情報収集の手がかりになります。
見落とされた造成地の読み方——法面・排水・地盤の落とし穴
「平坦で整形」という記載は、土地の魅力であると同時に問いでもあります。もともと平らだったのか、斜面を切り、谷側に土を盛って平らにしたのか。切土と盛土の境界をまたぐ建物は、地盤の性状が場所によって異なるため、基礎の判断が慎重になります。
2021年7月に静岡県熱海市で発生した大雨に伴う盛土崩落・土石流を契機に、宅地造成等規制法は抜本改正されました。国土交通省「盛土規制法の概要」によれば、宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)は令和4年5月27日に公布、令和5年5月26日に施行されています。土地の用途にかかわらず、都道府県知事等が指定する規制区域内での一定規模以上の盛土等の工事に許可が必要となり、盛土等が行われた土地を安全な状態に維持する土地所有者等の責務も明確化されました。罰則が強化されたのは、この維持責務そのものではなく、無許可行為や命令違反等に対するもので、条例による上限より高い水準(最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下、法人重科3億円以下)とされています。
つまり、造成された土地を買うことは、その造成を維持する立場を引き受けることでもあります。規制区域の指定状況や許可等の施行状況は盛土規制法の総合窓口(国土交通省ポータルサイト)で概観できますが、区域を指定するのは都道府県知事・指定都市の長・中核市の長です。候補地が区域内かどうかの最終的な判定は、各都道府県等が公表する規制区域図や担当窓口への照会、売買時の重要事項説明で確認してください。
現地では、擁壁の水抜き穴が詰まっていないか、法面に亀裂やはらみがないか、雨のあと敷地のどこに水が溜まるかを見ます。晴れた日の写真だけでは、雨水の行き先は分かりません。傾斜地の判断については「崖地」をどう読むか——がけ条例と造成から考える傾斜地の土地探しでも整理しています。
電気・水道・通信インフラの「隠れた格差」を現地調査で見極める
都市部の土地探しでは前提になっている条件が、二地域居住の候補地では前提になりません。電気の引込は最寄りの電柱からの距離次第で費用と工期が変わります。上水道が来ているのか、井戸なのか。下水道か、浄化槽か。浄化槽であれば設置費用に加え、保守点検と清掃が継続的に発生します。
通信も同様です。光回線の提供エリアは番地単位で異なることがあり、リモートワークを前提にするなら契約可否の確認は土地の条件と同じ重さを持ちます。いずれも一般論では判断できないため、電力会社・自治体の水道課・通信事業者への個別確認が実務の基本になります。
冬季アクセス問題——季節ごとの道路・積雪リスク評価
夏に見た土地は、冬に別の顔をします。積雪地では「行けるか」ではなく「毎回どれだけの手間がかかるか」が住み続けられるかを決めます。豪雪地帯対策特別措置法第2条第2項は、豪雪地帯のうち積雪の度が特に高く、積雪により長期間自動車の交通が途絶する等により住民の生活に著しい支障を生ずる地域を「特別豪雪地帯」として指定する仕組みを定めています(法本文は国土交通省「豪雪地帯対策特別措置法(本文)」)。
国土交通省「豪雪地帯対策の推進」では、指定制度と、豪雪地帯対策基本計画に基づく各種対策が示されています。候補地がどの区分に入るかは、冬季の生活コストを見積もるための出発点になります。
そのうえで確認したいのは、行政の除雪路線に含まれているか、含まれていないなら誰が除雪するのか、除雪した雪をどこに置けるのか。敷地内の駐車位置と玄関までの距離、屋根からの落雪の落ち先まで含めて考えると、配置計画は夏に描くものと変わってきます。
セカンドハウスの土地が「失敗する」3つの典型パターン
ここからは法令の説明ではなく、設計の現場で振り返った経験則です。うまくいかなかった土地には共通点があります。
- 眺望に惚れて、法規と造成履歴を確認しなかった——用途地域や建ぺい率・容積率、高さ制限や斜線制限、接道の状況は、自治体窓口での事前調査や重要事項説明で契約前に確認できます。後回しにすると、思い描いた建物が建たないと分かるのが契約直前、場合によっては契約後になるリスクがあります。
- 滞在頻度に対して維持の負担が重い——年に数回の滞在に、除雪・草刈り・浄化槽保守・凍結対策が積み上がる。使う時間より、管理する時間のほうが長くなる構図です。
- 資金計画の前提を取り違えた——セカンドハウスの取得資金は、自宅向けの住宅ローンとは条件が異なるのが一般的で、金融機関ごとに専用のセカンドハウスローン・別荘ローンや利用条件が設けられています。【フラット35】セカンドハウスのお申込みについてでは、機構等の直接融資との二重借入や賃貸目的の利用ができないことが明記されています。税制面でも、住宅ローン減税は国土交通省「住宅ローン減税」が示すとおり「主として居住の用に供する家屋であること」が要件で、詳細な適用要件は国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合」で確認できます。金利や適用の可否は金融機関・個別事情で異なるため、早い段階で確認してください。
浸水や豪雨のリスクの読み方については「浸水想定区域外」を読む——令和8年8月千葉豪雨が土地探しに問いかけたことも併せてご覧ください(「令和8年8月千葉豪雨」は、2026年8月13日からの大雨に対して気象庁が同年8月14日に定めた名称で、被害状況は国土交通省「令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について」で公表されています)。
設計者が土地内見で必ずチェックする7項目
以下は法令上の手続きではなく、私たちが現地に立つときの実務上の確認順序です。順序があると、見落としが減ります。
- 法規:用途地域、建ぺい率・容積率、高さ制限・斜線制限、地区計画や条例の有無
- 接道:接道義務を満たす道路か、実測の幅員、私道なら持分と通行・掘削の承諾
- 造成・盛土履歴:切土と盛土の境界、擁壁の形式と劣化、規制区域内かどうか
- 排水:雨水の流れる方向、隣地からの流入、放流先の確保
- インフラ:電気・上下水道・通信の引込距離と負担、浄化槽の設置可否
- 季節アクセス:冬季と雨天時の到達性、除雪路線、勾配と凍結
- 方位と環境:日照と眺望の方向、卓越風、周辺の将来的な建ち方

不動産情報の行間を読むポイント
不動産広告には表示のルールがあり、必要な事項は物件概要に記載されています。そのうえで、書かれた情報だけでは把握しにくい条件があります。「平坦」「南向き」「最寄インターから○分」——いずれも間違いではありませんが、季節ごとの道路状況や維持の負担、現地に立ったときの体感までは、概要欄には表れにくい情報です。

写真の画角の外に何があるか、隣地の空き地に将来何が建ち得るか。これらは図面では分かりません。だからこそ、現地には設計者と一緒に行く価値があります。同じ土地を見ても、不動産の目は「取引の条件」を、設計の目は「そこにどんな暮らしが成立するか」を読みます。
この読み替えは、都市の土地でも二地域居住の候補地でも同じです。S/CAPE編集部調べの初回相談記録には、「賃貸住まいで家族の居場所が分かれてしまうことに悩んでいたご家族が、世田谷エリアの細長い土地と出会い、設計者との初回相談を通じてその弱点を魅力へと読み替えていく、家づくりの始まりを記録した一編です。」という例が残っています。条件の悪さに見えるものが計画次第で成立に変わる——その順序、つまり土地の条件から間取りの可能性を先に描き、そのうえで買うかを決めるという進め方は、斜面地や積雪地の候補地でも変わりません。
二地域居住が長続きする土地の条件とは
編集部の相談経験の範囲では、続いている方々の土地に派手さはありません。共通して見えるのは、移動時間が生活のリズムに収まっていること、滞在していない間の管理が軽いこと、そして地域との関わりの入口があることです。改正法で創設された促進計画や支援法人の仕組みは、この三つ目を制度として支える枠組みでもあります。
旗竿地・変形地は避けるべきか
一律に避ける理由はありませんが、無条件に勧められるものでもありません。前提として確認したいのは、接道義務を満たす道路に有効に接しているか、通路部分の実測幅員で車両が進入・駐車できるか、私道であれば持分と通行・掘削の承諾が得られるか、電気・上下水道・通信の引込が通路を通して可能か、積雪地なら通路の除雪と雪の置き場を確保できるか、そして再建築が可能かという点です。
これらが確認できたうえでなら、旗竿地や変形地は価格に対して面積が確保しやすく、道路からの視線が届きにくいという性質を活かせます。二地域居住の拠点であれば、通路部分を駐車と薪置きの動線に充て、奥のふくらみに開口を集める——そうした割り切りが、かえって静かな滞在をつくります。炎のある暮らしの設計判断については薪ストーブのある暮らし——秋から灯す炎が教える、素材と間取りの設計判断で触れています。
逆に、整形で広く安い土地には理由があります。造成の履歴、排水の弱さ、冬季の孤立。それらを事前に読み、対処の費用まで含めて総額で比較できれば、判断はぶれません。候補地が数か所に絞れた段階でご相談いただければ、現地の同行と法規の確認からお手伝いできます。まずは無料相談で、土地の条件を一緒に読み解くところから始めてみてください。
よくある質問
- Q. 二地域居住促進法ができたことで、土地探しは実際にやりやすくなりますか。
- 制度としての追い風は明確です。改正広域的地域活性化基盤整備法は令和6年11月1日に施行され、市町村による特定居住促進計画の作成、二地域居住等支援法人の指定、協議会の組織という3つの枠組みが用意されました。国は施行後5年で計画600件・支援法人600法人という目標を示しています。ただし取り組みの進み方は自治体ごとに異なるため、候補地の自治体が計画を作成しているか、相談窓口があるかを確認することが実務上の第一歩になります。
- Q. 造成された土地を検討する際、最低限どこを確認すべきでしょうか。
- まず候補地が盛土規制法の規制区域内かどうかを国土交通省のポータルサイトで確認し、造成が切土と盛土のどちらか、その境界がどこを通るかを把握します。現地では擁壁の水抜き穴や法面の亀裂、雨のあとに水が溜まる位置を見ます。盛土等が行われた土地は所有者等が安全な状態に維持する責務を負うことが法律上明確化されているため、購入後の管理負担も含めた判断が必要です。詳細は必ず自治体の担当課と設計者に確認してください。
- Q. セカンドハウスの土地取得は、通常の住宅ローンで進められますか。
- 住民票を置く自宅ではないため、一般的な住宅ローンの対象外となります。住宅金融支援機構のフラット35はセカンドハウス取得にも利用できますが、機構等の直接融資との二重借入や賃貸目的の利用はできず、住宅ローン控除の適用対象にもなりません。民間金融機関の別荘・セカンドハウス向けローンでは通常の住宅ローンに金利が上乗せされる場合があり、条件は金融機関ごとに異なります。税務の扱いを含め、早い段階で専門家に確認することをおすすめします。


